イラストレータ ニャン イラスト展示活動中

2015/04/01

くじらさんのお肉は食べれなくてごめんなさい



ホエールウォッチングなる遊びをしたことがあります。

くじらさんが回遊している諸島へチャーター船へ大人数で乗って行き、しばし諸島内を遊覧して、くじらさんが波間から姿を表すのを待つのです。

結果を言うとまったく姿は見れませんでした。

くじらさんのプシューやザバーンには、それぞれカタカナで名前がついていて、それらの講義を船上で受けて、なんだか見たような気持ちにさせてもらっただけです。

そして思いのほか激しく揺れる船の上。
想像していなかった乱暴なエンジン音。
そのエンジンのための燃料の臭い。

ひとり、またひとりと、甲板に倒れていきました。

スポンジでできたオレンジ色のジャケットを羽織った人間の群れは、小さな白い船の上で、もはやくじらさんに会いたいと言う気持ちを忘れ、ただ今しんどいねん…寝かせて…。と揺れるしうるさいし臭いところから早く帰りたい、ああ帰りたい。ともがくばかりです。

その昔似たような経験があるニャンは、なんと服薬のおかげか、ど根性か、最後まで正気で水平線からひょこりとくじらさんが姿をあらわさないか、しかと見つめることができました。

そうこうしているうちに、先ほどまで小さく見えていた白い波の先が、近づいて大きくなっては船下へもみ消される、を繰り返し、はたしてこの海の上で、この船や、それに含まれる私という存在はなんと小さかろうかと言う思いに至っていきました。

諸島の海の中でスイスイと泳ぎ回り、どこでプシューとザバーンをするかわからない大きなくじらさんに、数時間粘っても会えないこの海は、あまりに果てしなく、その大きさなどに考えが及ぶころにはもはや、ひとり完全に瞑想状態であったと思われます。

そんなこんなで船はくじらさんとお会いすることなくも、無事に港へ戻って、くじらさんのプリントされたTシャツやポーチの類を販売しているお店に連れて行かれるなどを経て、同じ志とストレスを感じた仲間たちは散り散りに去っていきました。

この思い出話をした方から、のちにくじらさんの煮付けやジャーキーなどをいただきました。ニャンがくじらさんを好きなのだと記憶してくれていたのでしょう。
とても美味しそうなお肉です。
しかし、あの水平線を思い出すと、とてもパウチを開けてチンしようかとは思いませんでした。
しかしだからと言って捨てるなどはあり得ません。
そこで。お世話になっている方にもしよろしければ…と差し出したところ、

「えっ!食べへんの?もらっていいのん?ヤッター!僕くじら大好きやねん!」

無邪気に喜んで受け取ってくださいました。
これでくじらさんも報われると言うものです。喜んでくれる人のもとへ旅立ったのだから。
きっとこれからもくじらさんのお肉を頂戴してもどなたかにバトンタッチすると思いますし、ホエールウォッチングは、はたして遊びなのかまだ考えの至らないところです。生態系の勉強になりましたし、船員さんの情熱も感じましたし、なにより現場にいられましたから。ウォッチングはできませんでしたが。


ただあの晴れ上がった空の下、ゴゴゴと揺れる船の上で見た海が瞳に焼き付いて、思い出すたびに自分がちんまりとするのです。




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